しまなみ海道ウルトラウォーキング
9月17日(土)から18日(日)にかけて行われた「しまなみ海道ウルトラウォーキング」に参加してきました。
尾道市民センター向島芝生公園を17日15時にスタートして、因島、生口島、大三島、伯方島、大島を経由し、今治駅至近の喜助の湯がゴールです。ゴール制限時間は18日の16時、総距離75kmを25時間以内に歩きます。
最大の心配事は、台風14号の接近でした。天気予報によると、17日は曇りですが、18日は6時ごろから降り始め、終日雨の予報でした。気温はまだ高いとは言え、雨に濡れると一気にテンションが下がってしうので、雨が降り始めるまでに、すなわち6時までにゴールすることを目標としました。歩行時間は15時間、時速5kmの高速ウォーキングで台風と競争です。
尾道ポートターミナルから5分ほど船に乗って向島へ、料金は100円(自転車は110円)でした。さすがはサイクリストの聖地と呼ばれるだけのことはあって、ウォーキング参加者以外にも多くのサイクリストが乗船していました。
この日の参加者は500人。申し込み開始からあっという間に定員に達したとのこと。スタート地点の尾道市民センター向島芝生公園には、既に多くの参加者が準備を始めています。コロナ禍の開催ということもあって、発熱や咳・のどの痛みの症状等の報告義務があるのですが、あわてて調査票に記入をしている参加者がちらほら見受けられました。
「ちゃんと事前に準備しておかないと。案内を読んでいないのかなぁ」と思いながら、案内はがきを改めて見てみると、当日の体温記入欄とルール順守宣誓の署名欄が表面にあるではないですか。
「げっ、完全に見落としていた! しかも、ペンを持ってきていないし」
運営スタッフや他の参加者に借りても良かったのですが、「事前にちゃんと準備しておけよ」と思われるのも恥ずかしいので、必死になって市民センターの中でペンを持っていそうな人を探しました。何とかカードゲームに興じていた高校生からペンを借りて事なきを得ましたが、準備段階での最終確認の重要性を改めて認識しました。地元の高校生、ありがとうね!
さて、いよいよスタートです。天を仰ぎ、無事にゴールできることを祈りました。
今回は密を回避するために4回に分けたウェーブ方式のスタートとなります。15時05分に私を含めた約150人の一団がスタートしました。気温は29.8℃、雲のあいだから青空も顔を覗かせ絶好のコンディションです。
歩道が狭いため、スタート直後は渋滞が発生して思うように進めないのですが、まあこれも良くあることで、集団がばらけるまでは焦らずに風景を楽しむことにしましょう。
約7kmで因島大橋に到着。1時間20分でここまで来たのでまずまずのペースです。この橋は2層式、つまり上が車道で、下に自転車歩行者道が併設されているため、残念ながら期待していた絶景は見られませんでした。とはいえ、しまなみ海道の主役は離島にかかる六つの橋であることは間違いなく、1,270mの巨大橋を渡る初体験に、いやが上にもテンションが上がりました。
18時10分、第一エイドのファミリーマート因島重井店に到着。ここまで16km。コロナ対策として、カットフルーツやむき出しのパンなどはなく、個別包装のおにぎりやサンドイッチが提供されました。紙コップの提供もなく、水やスポーツドリンクは持参したマイカップで飲まなくてはいけません。ちなみに歩行中、マイカップをどうしていたのかというと、私の場合はこのようにリュックのベルトに引っかけていました。これも人によって様々で、帽子の鍔に洗濯ばさみで挟む人や、100均で売っているようなフックでリュックに引っかける人もいて、個人差があって面白いです。
日も暮れてきました。ヘッドライトとバックライトを装着し、いよいよナイトウォーキングの始まりです。
ここではたと気づきました。
「このまま順調に行けば、翌朝6時ごろにはゴールできてしまうなぁ。ということは、残り9時間は暗闇でのウォーキングとなるのか・・・」
とはいえ、おそらく橋はライトアップされているでしょうから、存分に夜景を楽しめるだろうという期待はありましたが、後にその考えはもろくも崩れ去ってしまうのでした。
20時50分、第二エイドの瀬戸田サンセットビーチに到着。ここまで33km。
ここで夕食の提供がありました。ちなみに今回は、5km毎のタイミングでエネルギージェル(メダリスト)若しくは、エイドで提供されるものを食べる計画です。エイドがほぼ15km毎に4箇所用意されていますので、75km÷5km-1(ゴールでは不要)-4(エイド分)=10個のジェルを用意しました。
ジェルの重さは1個45gなので、10個で450g、トレラン用のリュックは重心のバランスが工夫されていて、通常のものより重さは感じにくいのですが、それでも450gとなると、そこそこの重さを感じます。ここまで4個を消費したので、残りは6個。少しは軽くなったような気がしました。
ジェルの消費に伴ってリュックの重みが和らいでくると、ゴールに近づいているんだなぁという実感がわいてきます。
第2エイドを出発してしばらく歩くと、誰かが後ろにいる気配がしました。ヘッドライトをつけていると、その明かりで人が近づいてくる気配がわかるのですが、前方を照らす明かりは一つだけ、更に足音も私の足音だけなので、気配は気のせいかなとは思いながらも、怖くて振り返ることが出来ませんでした。
ところが、後ろの気配が消えることはなく、むしろさっきよりも強くなっているような気がします。試しにサイドステップで右側に少しジャンプすると、その瞬間、後ろから
「あっ、大丈夫ですので」
と男性の声がしました。ギャーっと叫びたいのを必死でこらえましたが、背筋に冷たいものが走りました。冷静になって考えてみると、ヘッドライトを忘れた参加者が、私の照らし出す明かりを頼りに、しかも私と同じ歩調で後ろからついてきていただけのことなのですが、次第にふつふつと怒りがこみ上げ、
「ルール違反やん。ついてくるなら一言声を掛けろよ。それに、何が “あっ、大丈夫ですので“ やねん」
と心の中で悪態をついていました。
こんな奴は振り切ってしまえと、一気にスピードを上げると、果たして付いてこられなくなったのか、
「休憩しまーす」
と、座り込んでしまいました。
「勝手に休憩せえや」と、これまた心の中で突っ込みを入れましたが、とんだお化け騒動でした。
22時、多々良大橋の途中で愛媛県に入りました。この辺りでほぼ半分を歩いたことになります。通過タイムが7時間17分、ペースは順調です。ただ、どの橋も期待したほどライトアップされておらず、島内もほぼ真っ暗でしたので、単調なコースに23時を過ぎる頃から次第に眠くなってきました。
普段のレースでもそうなのですが、こんな時はチーム・えもヤンのメンバーにLINEを送って、半ば強制的に応援を要請します。こんな夜中に送られてくる方はきっと迷惑しているだろうなぁと思いながらも、励ましのメッセージをもらうと不思議なもので、眠気も吹っ飛び、俄然パワーがみなぎってきます。今回はちょっとしたサプライズもあり、深夜に相手をしてくださったメンバーには本当に感謝です。
その後は第三エイド(47km)、第四エイド(62km)まで順調に到達し、残すはいよいよ来島海峡大橋を残すのみ。これを渡れば四国に上陸です。来島海峡大橋は大島と今治の間の来島海峡に架かる総延長4.1kmの3つの吊橋の総称です。
さあ、これを渡ればいよいよ今治、最後の橋を存分に楽しもう!
と意気揚々と渡り始めたのですが、橋の上は猛烈な風が吹き荒れていました。かろうじて歩くことはできたのですが、油断すると身体ごと持って行かれそうで、身の危険を感じました。
おまけに、橋を吊っているワイヤーや金属の部材が風と共鳴しているのか、
ギャーン、ギャーン、グイーン、ギャーン
と、まるでゴジラ映画に出てくるキングギドラの鳴き声のような音が、耳をふさぎたくなるほどの大音量で襲いかかってきました。
確かにこれまでのレースでも、トンネル内で親子の声が聞こえたことや、あるいはお化けらしきものに遭遇したことは何度かありましたが、今回の烈風鳴龍はこれまでとは違った意味で最大級の恐怖を感じました。
遙か前方に参加者らしきバックライトが、そして後ろには誰もいません。恐怖を紛らわすために大声で “新時代” や “私は最強” を歌ってはみたものの、口から声が出た瞬間に、その声が風にあおられて遙か彼方にピューッと飛んでいってしまいます。
それでもようやく渡りきると、まるで何事もなかったかのように風はピタリとやみ、静寂が訪れました。
いったい今のは何だったのだろう、あれは現実だったのかと、頭の中は???だらけでしたが、東の空が次第に白み始め、ゴールが近づく安心感と喜びがふつふつとわいてきました。
6時17分、めでたくゴール! 旅は終わりを迎えました。
台風はもうそこまで来ています。喜助の湯で汗を流し、足早に帰路につきました。
ゴトゴトと揺れる列車の窓には、ぽつり、ぽつりと雨粒が。
天気予報の正確さに驚くとともに、雨が降る前にゴール出来て本当に良かったとしみじみと思いました。
主催してくださった日本ウルトラウォーキング協会の皆様、コロナは落ち着いてきたものの、それでもやはり万全の対策は必要で、おまけに台風接近という事態に見舞われながらも、開催していただいたことに心から感謝いたします。最終歩行者がゴールするまで、途中で中止にすることなく無事に終わられたとのこと、本当にお疲れ様でした。
コース途中の全ての案内看板に、ミニライトが取り付けられていたのには驚きました。参加者が安全にゴールできることを願いながら一つ一つ取り付けて下さったのでしょう。本当にありがとうございました。
素晴らしいコースを完歩できた上に、各エイドでは皆様の温かなおもてなしに触れることができ、このイベントに参加してよかったと心底思いました。
次の機会があれば是非参加したいと思います。
その時の再会を楽しみにしております。
さ~、帰って洗濯だ~!