撃沈! 太陽の道ウルトラマラニック④
9月12日(土)12時44分、スタートから80kmの室生寺でレースは終わりました。半分も行かずにあえなくリタイヤ。室生寺近くの辰巳屋食堂の軒先で、ブルーシートに横たわって眺めた空は、憎らしいほどいい天気でした。
天気予報、外れたなぁ。
暑かったなぁ。暑さ対策を間違えたのかなぁ。
補給は足りていたはずなのになぁ。
ブログになんて書こう、会社のみんなになんて言おう・・・
ウルトラマラソン界では、「月曜日に会社に行くまでがウルトラマラソン」と言われています。9月14日(月)に会社に出勤した時点で、今回の太陽の道ウルトラマラニックは(無事に)終了したと言えるのですが、勤務中も自問自答が頭の中を駆け巡り、聞こえてくる会議の声も上の空。私の中ではレースはまだ終わっていないのかもしれません。
暑かったなあ。暑さ対策を間違えたのかなぁ。
靴は悪くなかったよなぁ。
荷物が多すぎたのかなあ。肩が未だ痛いよ。
リタイヤしたレースの後はいつもこうです。失望と後悔が入り混じった妙な感覚です。
とはいえ、レースは終わりました。スタート前に時間を戻して、今回のレースを振り返ってみたいと思います。
9月11日(金)21時過ぎ。
南海電車浜寺公園駅前に到着して夜空を見上げると星が出ていました。心配していた雨はどうやら降りそうもなく一安心。主催者の日本100マイルクラブのナビさん、マリリンさんや、ランナーの皆さんと共に再開を喜び、否が応でもアドレナリンが放出され、緊張が高まります。
2月の小江戸大江戸200kが終わってジャスト200日。コロナの影響で軒並みレースは中止や延期になりました。様々な制約がある中で、開催にまでこぎつけて下さった主催者のナビさん、マリリンさん、本当にありがとうございました。
22時ジャスト、30分前に先行した4人と、30分後に出発する後発の4人を除いた12人が一斉にスタートしました。スタートダッシュで飛び出す猛者がいるわけでもなく、日本100マイルクラブのレースらしい緩いスタートです。
コースの下見はしたものの、いざ走り始めてみると昼間と夜の風景は全然違っており、道に迷う不安のあった二上山を越えるまでは、集団に付いていこうと決めました。ペースはやや速め。おしゃべりをしながら走れるので、そんなに速くはないと思うのですが、意外と体感温度が高く、徐々にではありますが噴き出してきた汗に少しの不安を感じました。
ペースを落とすべきか。
いや、集団からはぐれると、かなりの高確率でコースロストしてしまうだろうし、補給と給水はちゃんとできているから何とかなるだろう。
よし、このままのペースで行こう!
レースは序盤の山場、二上山の急登に差し掛かります。(図中①の区間)
いいペースで登り始めたのですが、やがて少しずつ足攣りの兆候が出始めました。
やばい、足攣りそう。
まだ30kmも走ってないぞ。
汗をかきすぎたのか?
完全にペースはダウンし、足が止まってしまうことも何度かありました。集団からは徐々に遅れはじめ、暗い山道で一人ぼっちになる不安と恐怖が容赦なく襲い掛かります。
それでも何とか山頂にたどりつきましたが、すっかり疲労困憊で「リタイヤ」が頭をよぎりました。
いやいや、こんなに早くリタイヤなんてありえないでしょ。
まだ26km、エイジランすら達成していないし!(第1回の投稿参照、エイジランには56km走破が必要)
急な勾配をおっかなびっくり、へっぴり腰で下り終えるころには、体力と気力は徐々に回復してきました。ペースも超ウルトラらしいゆっくりとしたものになり、コースロストの不安がなくなったこともあって、ランを楽しむ余裕が出てきました。
箸墓古墳を過ぎるころには次第に東の空が白み始め、夜と朝の境界があやふやになってきました。
映画「君の名は」で夕方の夕日が沈むまでの時間を「片割れ時」と呼んで、「片割れ時」に時を超えた主人公二人が出会う象徴的なシーンがあります。夕方の「片割れ時」は少し寂しげで、それはそれで大好きなのですが、明け方の朝日が昇るまでの「片割れ時」はもっと好きです。
静かさと厳かさ、爽やかさと清々しさ、生命の営みを肌で感じることが出来るこの一瞬は、ナイトランならではの醍醐味です。
しかし、そんな喜びや感動もつかの間でした。いざ太陽が顔を出すと、気温は一気に上昇し、肌を刺す紫外線が容赦なく襲ってきました。
暑い、暑いぞ!
天気予報は曇りじゃなかったのか?
長谷寺の手前では太陽の光を真正面から受け、平坦な直線がやたら長く感じられました。6kmほど歩道の狭い直線が終わると長谷寺の参道からは上り坂が始まり「やっと歩けるぞ~」と一安心です。
超ウルトラを走っていると、時間がたつにつれて坂道を待ち焦がれるようになります。普通考えると、坂道はより多くのアレルギーを使う「しんどい」ものですが、歩いて登らざるを得ない坂道は、むしろ「休足区間」という感じがし、精神的にほっとするのです。
長谷寺から高束城跡まで(図中②の区間)は絶好調でした。上りのトレイルも何のその、気が付けば一緒に走っていた方々の姿は見られず、完全に振り切っていました。
ところが、この好調も長くは続きません。山辺赤人墓までの上りは一歩一歩が苦しみとの戦いとなりました。(図中③の区間)
両足のハムストリングが攣ってしまい、休んでは歩く、休んでは歩く、の繰り返し。おまけにウオーターボトルの水は枯渇寸前、動悸と呼吸は激しさを増すばかりです。
やばっ、これって熱中症か?
蒸し暑い!地面から湯気が立っているのが見えてるやん。
よく見たら、自分の体からも湯気が出てるやん。(本当です)
見かねたKさんはスポーツソルトを、Nさんは水を、Tさんは水を分けてくれました。この時は本当に助かりました。過酷な状況を走っていると、競争相手というより戦友という意識が芽生えてきます。感謝、感謝です。
何とか峠の頂上の山辺赤人墓にたどり着き、休憩しているうちに体調は回復してきたものの、心は次第にリタイヤに傾いてきました。
門守峠(図中④の区間)ではずっと足元を見つめながら、無理やり足を前へ前へと進めました。頭の中では同じ葛藤が何度も繰り返されます。
日の入りまで未だ6時間以上あるなぁ。
このまま炎天下で走り続けると、マジで熱中症になるぞ。
おまけに、これからの方が峠や山道が多くなるし。
万が一、山道で倒れたら最悪の事態になるなぁ。
崖から落ちたら誰も助けに来てくれないだろうなぁ。
天気予報では今夜から明日にかけて雨だったよなぁ。雨の中を走るのは嫌だなぁ。
室生寺から先に進んだとして、中太郎でリタイヤしたら、最終バスは出てしまっているので、夜明けまでどこかで野宿しなくてはいけないなぁ。
室生寺でリタイヤすれば、夕方には家に帰れるなぁ。
明日一日、ゆっくり休めるなぁ。
室生寺でやめようかなぁ・・・
この時の私は、このように完全にネガティブマインドのスパイラルに陥っていました。
冷静に振り返ってみると、いくらでも弱い自分にいくらでも反論できますが、実はこれまでにリタイヤしたレースでも、ほぼ同じ思考をたどっているのです。
特に「今帰ったら、明日一日ゆっくり休めるなぁ」はキラー・ワードです。この言葉によって、「うつくしま、ふくしま。ジャーニーラン」では中間地点の郡山で新幹線に乗ってしまい、「小江戸大江戸200k」では新宿に止まっていたタクシーに思わず飛び乗り、過去4回の「関西夢グレートラン」では目の前の駅で電車に乗ってしまいました。
これまでに肉体的な不調(足の痛みや胃の不調)や時間制限によるリタイヤは数えるほどしかありません。心の弱さが原因でリタイヤしてしまうと、後遺症は結構大きいです。スカッと「よし、次は頑張ろう!」と切り替えられないのが正直なところです。
とはいえ、レースは終わりました。このレースで収穫があったとすれば、56歳としてのエイジランを達成できたことでしょうか。それはそれで、ひとまずおめでとう。自分をほめてあげたいです。
今回の反省と教訓は次の3点。
・下見ランはほどほどに。向かってくる苦痛が見えていると心は折れやすくなる。
・周りにつられずにマイペースで。序盤はゆっくりと。
・「今帰ったら、明日一日ゆっくりやすめるなぁ」は封印する。
封印方法、誰か教えてくださ~い!!
※参加者20人中、9名の方が完走されたそうです。あの過酷な条件で完走された9名の方には心から敬服します。あ~、私もゴールしたかったなぁ・・・
20人中9人しか完走できないなんて、過酷なレースだったんですね。
撃沈しても、原因分析して次へ向かわれるのはサスガです。
撃沈いうても、フルマラソン以上走ってはるんですよね。恐るべき世界です。
記念すべきコメント第1号、ありがとうございました!!
後日、レースを一緒に走った方々と話をする機会があったのですが、皆さん一同に「暑さにやられた」と仰っていました。
良い経験が出来たと前向きにとらえたいと思います。