活字中毒 ② 徹夜本
最近読んだ本について書きます。
三体、三体(黒暗森林 上・下) 劉慈欣 著 早川書房
久々に徹夜本に出合いました。一旦読み始めると止まらなくなるほど面白い本を、「徹夜本」と呼んでいるだけで、実際に徹夜して読んだわけではありません。念のため。
一言でいうと、異星文明との接触を壮大なスケールで描いたお話で、テーマとしては目新しさはないのですが、ストーリーの展開が秀逸で、読み終わるまでハラハラドキドキの連続でした。
三体は、中国で2008年に単行本として刊行されましたが、出版されるやいなや、人気が爆発し、三体三部作(「三体」「黒暗森林」「死神永生」)で2100万部以上を売り上げました。中国のみならず世界的にも評価され、2015年にSFの世界最大の賞である「ヒューゴー賞」を、翻訳書として、またアジア人作家として初めて受賞しました。
バラク・オバマ前大統領も「とにかくスケールが大きくて読むのが楽しい」と大絶賛。鳴り物入りで2019年7月に日本で発売されるや否や、様々な方面で話題となりました。
内容について書くとネタバレになりますので控えますが、前評判にたがわず楽しむことができました。来年春に予定されている第3巻(最終巻)の発刊が今から楽しみです。
さて、これまでにも何冊かの「徹夜本」に出合いましたが、そのうちの何冊かを紹介したいと思います。
百年法 山田宗樹 著 角川文庫
不老不死が実現した日本。しかし、法律により百年後に死ななければならない――西暦2048年。百年の生と引き替えに、不老処置を受けた人々の100年目の死の強制が目前に迫っていた。その時人々の選択は?(作品紹介HPより)
100年後に必ず死ぬことを約束したうえで、それまでの間は不老不死(年をとらない、病気にならない)になることが出来るとしたら、果たして私はその選択をするでしょうか。
この作中では、その選択をしなかった人、選択をした人、選択をして間もなく100年を迎える人が登場します。
各々の登場人物に自分を重ね合わせることで、作中の世界にどっぷりと浸ることが出来ました。映画化やアニメ化はされていませんが、文字で読むが故の楽しさを味わうことができる一冊です。
サクリファイス 近藤史恵 著 新潮文庫
陸上競技から自転車競技へ転向し、プロチームに所属する白石誓。
誓の仕事は、チームのエースの勝利のためにアシストをすること。
エースに付きまとう黒い噂、次期エースを目指す同期のライバル、元恋人との再会、様々な出来事が誓の心を揺さぶる。そして、ヨーロッパでのレース中に悲劇が起こる。(作品紹介HPより)
英語表記は「sacrifice」、日本語に訳すと「犠牲」。
以前の投稿で「弱虫ペダル」にハマってしまったことを書きましたが、そのおかげで、この本を読み返したときに、ロードレースにおけるチーム個々人の役割等、初読のときに深く理解していなかったことも理解でき、より一層、この作品を面白く味わうことが出来ました。
エースの勝利というものはアシストの犠牲の上に成り立っているという、ロードレース独特の「しくみ」が、「サクリファイス」や「弱虫ペダル」の面白さの要因の一つなのでしょう。
ネタバレになるのでこれ以上言えませんが、この小説にはもう一つのsacrificeが最後に待っています。アッと驚く展開に読み終えてしばし呆然としてしまいました。
蜜蜂と遠雷 恩田陸 著 幻冬舎文庫
近年その覇者が音楽界の寵児となる芳ヶ江国際ピアノコンクール。自宅に楽器を持たない少年・風間塵16歳。かつて天才少女としてデビューしながら突然の母の死以来、弾けなくなった栄伝亜夜20歳。楽器店勤務のサラリーマン・高島明石28歳。完璧な技術と音楽性の優勝候補マサル19歳。天才たちによる、競争という名の自らとの闘い。その火蓋が切られた。(作品紹介HPより)
直木賞と本屋大賞をダブル受賞した恩田陸の代表作です。ここまで見事に音楽を言葉で表現できるとは、恩田陸に脱帽です。
まるでその場にいるような臨場感と緊迫感、鋭意奏者の息遣いまで聞こえてきそうな文章にグイグイ引き込まれ、全集中して一気読みしました。
作中、亜夜と塵が夜中にドビッシーの「月光」を連弾するシーンがあります。静かに、それでいて艶やかに、二人が月光に溶けてしまうようなこのシーンは、心の奥に深く刻み込まれ、今でも「月光」を聞くたびに脳裏に浮かんできます。
秋の夜長にぴったりの一冊ではないでしょうか。