「100年ライフ」のサイエンスを読んで
この本では、健康長寿を支えるライフサイエンスの最前線が紹介されています。
認知症やフレイル(虚弱)など、加齢に伴う心身の機能低下の問題に対してどう取り組み、全ての人が、生まれてから最後の日まで幸せな人生を全うするにはどうしたらよいのか。
老化を引き起こすファクターは哺乳類においても徐々に解明されつつあり、こうすれば老化が進む、逆に抑制できる、という話が少しずつ出てきているそうです。
今から30年後の2050年には日本人の3人に一人が65歳以上となり、超高齢化社会が到来します。この本に書かれていることは、超高齢化社会に向けて、どのように生きていくかのヒントになるかもしれません。
ただし、この本は300ページもあります。そこで、難しいサイエンスの話は割愛して、ノウハウ的な内容、つまり、こうすれば老化を制御していつまでも若々しくいられますよ、ということに絞って、内容を紹介したいと思います。
老化の犯人はNADの減少
NADはわかりやすく言うと「抗老化ビタミン」のようなもので、NDAがないと人は生きられず、加齢により減少することが知られています。
摂取カロリーを減らすと、脳、すい臓、肝臓など、全身の様々な細胞中でNADが増えます。NDAが増えると長寿遺伝子にスイッチが入り、傷んだDNAが修復され、細胞のエネルギー生産工場であるミトコンドリアが若返り、正常な細胞分裂を促進します。こうして、全身の細胞で、老化を食い止めるシステムの歯車が本来の動きを取り戻して動き始めるのです。
とはいえ、一定のカロリー制限を長期間続けるのは難しいと思います。もう少し楽に取り組める方法として、断続的にカロリー摂取量を落とす、FDM(断食模倣食、いわば「ゆる断」)と呼ばれる研究も進んでいます。
例えば、1か月のうち5日間だけ、タンパク質と糖質(炭水化物)を減らして少食(1日目は1100kcal、2~5日目720kcal程度)にし、残りの25~26日はタンパク質と糖質、脂質もしかっりとってバランスよく食べるという方法があります。
また、1日だけ水のみで過ごす「プチ断食」から始めるもの良いかもしれません。
もっと簡単な抗老化法は、きちんと空腹を感じるまで食べないようにすることです。空腹でもないのに食事や間食をせず、お腹がグーッと鳴るくらい空腹を感じてからとるようにするのがお勧めです。
日常生活の中でできて、NDAを増やし長寿遺伝子を活性化する働きが証明されている方法として「運動」があります。効果的なのは、息が上がる手前くらいのややきつめの運動をすることで、有酸素運動に加えて週2~3回程度、簡易筋トレを始めてはいかがでしょうか。
(簡易筋トレの方法は本の中で紹介されています)
ここで紹介したカロリー制限や運動法は、どちらもエビデンスレベルは十分ですが、きちんと取り組むにはハードルが高いものです。最先端のサイエンスは、人に投与するだけで効果がある物質を探してきました。そして、今、NDAを増やし長寿遺伝子を活性化させる物質が、薬ではなく、もっと手が届きやすい食品として私たちの前に登場しました。
それが、NMN(ニコチンアミドモノヌクレオチド)という名前の物質です。
NMNは野菜や牛肉のも含まれますが、ごく微量で、最近ではサプリメントが販売されているようです。
この本では具体的なサプリメントは紹介されていませんが、私がネットで調べた限りでは多くのメーカーが製造しているようです。ちなみに、YAHOOショッピングの売れ筋1位はmaac10社(アメリカ)製のものでした。
スーパー栄養素・ビタミンD
ビタミンDは、フレイル(虚弱)、感染症、がん、糖尿病など、不足が続くと健康寿命を阻害するリスクに広く関わる栄養素であることが、様々な研究成果からわかってきました。
2000年代に入り世界中で研究が進み、今や抗老化への期待が最も高い食品成分の一つと言っても過言ではありません。
ビタミンDは、サケ、サンマ、ブリ、イワシ、カレイ、シラスなどの魚類や、干しシイタケ、きくらげなどのキノコ類に豊富に含まれています。
また、ビタミンDは、紫外線(UV)を皮膚に浴びることで、体内のコレステロールから合成されます。「魚をあまり食べず」「UVケアを徹底している」人はビタミンDが不足するようなので、要注意です。
紫外線による肌の老化が気になる人は、国立環境研究所のウェブサイトで「必要な量を安全に作れる時間」をチェックしましょう。
抗老化への期待が高まっている栄養素としてビタミンKも注目されています。納豆などの発酵食品に含まれるビタミンK2は、特に活性が高く研究報告も多いそうです。
ビタミンDとビタミンKの効率的な摂取源である魚と納豆は、どちらも日本食を代表する健康食材です。私たちが大切にしてきた食文化には、まだまだ秘められたパワーがあるのかもしれません。
食物繊維をしっかりとりましょう
1日に摂取するエネルギーのほぼ半分を占める主食(炭水化物)源として注目を集めているのが、玄米や全粒粉パンなど、未精製(もしくは精製度が低い)の穀物である「全粒穀物」。白米や精製小麦粉から精製度の低い主食に帰ることによる健康効果が次々と実証されています。
2020年度版「日本人の食事摂取基準」(厚生労働省)で定められている食物繊維目標量は、「1日当たり成人男性21g以上、成人女性18g以上」ですが、主食を全粒穀物に変えれば達成可能です。主食に全粒タイプの穀物を混ぜれば、食物繊維を安定的にとり、腸内細菌のエサになる発酵性食物繊維も確実にとることができます。だからこそ、食物繊維は主食からとるのが効率的で、これまで白米中心の生活を送ってきた人なら、まずは1日1食を玄米やシリアルを使った全粒穀物に置き換えるか、大麦を混ぜた麦ごはんにすることから始めてみましょう。
おかずには水溶性食物繊維を含むワカメやヒジキ、ゴボウ、難消化性でんぷんを豊富に含む糖類などを、間食にはナッツや果物を取り入れれば、1日25gの食物繊維摂取は可能です。
ちなみに、このパートを監修された青江教授の食習慣は以下のようなものです。
朝食は、シリアルをその日の気分で4種類ブレンド。シリアルは、小麦ブラン、大麦、オーツ麦が入っているものを常備。心疾患や糖尿病予防に有粉乳製品由来のカルシウム源として、シリアルにはヨーグルトを合わせます。昼食は、コンビニで、根菜や枝豆などが入った1食当たりで5gほどの食物繊維を取れるサラダを選びます。夕食は、ごはんは必ず大麦ごはん。タンパク質やレジスタントスターチ源として、豆類も意識してとっています。
短すぎず長すぎない睡眠を
ショッキングなことに、「良い睡眠をとっていれば健康寿命が延びるというエビデンスはまだない」そうです。では、どうすればよいのか・・・
多くの研究から、7時間前後眠っている人が一番寿命が長いという結果は出ていますが、なぜ7時間眠る人が長生きなのかは証明されていません。
かつて、理想の睡眠は8時間といわれたこもありましたが、これは俗説にすぎず、科学的な根拠はないそうです。
ただ、慢性的な睡眠不足が続くと病気のリスクが高くなることは、多くの疫学調査で確認されています。将来の認知症リスクも高くなるようです。
睡眠についてよくある誤解の一つが「量より質」という思い込みで、浅い睡眠でだらだら眠るよりも短時間でぐっすり眠ったほうが良い、というのは間違いだそうです。睡眠はまず「量」が重要とのこと。
「深い睡眠」イコール質の良い睡眠ではなく、1日1回長時間眠ることで、前半の深い睡眠から後半の浅い睡眠までフルコースをとることが、本当の意味での「質の良い睡眠」だそうです。
長すぎる睡眠に関しては、「長すぎる」から良くないのではなく、「何らかの健康上の理由で(例えば、睡眠時無呼吸症候群)」で長く寝る必要が生じているのです。
平日に十分な睡眠時間が取れていないのなら、週末に多めに寝ることも必要ですが、その時は睡眠中央時間(寝てから起きるまでの時間の真ん中の時間。夜11時に寝て朝6時に起きるのであれば2時30分が中央値)が、なるべく平日の値とずれないようにすることが必要です。つまり、平日と同じ時間に寝て朝寝坊するのではなく、早めに床に就くことを心がけましょう。とはいえ、寝だめでは病気のリスクは解消されないので、やはり、平日も週末も同じサイクルで同じくらい眠るのがベターなようです。
夜のコーヒーは避け、寝るために「寝酒」をするのはやめましょう。
最後に、「何時間以上寝るべき」「何時にはベッドに入るべき」など、強い思い込みを持つのは逆効果で、過度に神経質になることはなく、体の声を聞きながら「眠くなったら寝る」くらいがいいのかもしれません。
認知症予防
2017年に英国の医学雑誌「ランセット」に注目すべき論文が発表されました。認知症の発症リスクを高める要因のうち、「自分で改善可能な9つのリスク」が示されたのです。そのうち、中年期(45~65歳)では、「高血圧」「肥満」「難聴(聴力低下)」が挙げられ、高齢期(65歳以上)では、「禁煙」「抑うつ」「運動不足」「社会的孤立」「糖尿病」が挙げられています。
更に、2020年7月の「ランセット認知症予防・介入・ケアに関する国際委員会」は「過度のアルコール摂取」「脳挫傷」「大気汚染」を加えて12のリスクとしました。
更に、日本人特有のリスクとして「やせ」が挙げられています。BMI(体重kg÷身長m÷身長)は日本では18.5以上25未満が「普通体重」とされていますが、アメリカでは20以下は低栄養領域ととらえられており痩せすぎも良くないようです。
よく言われているのは、一番長生きするのはBMIが25くらいの小太りの人ですが、ちなみに私は58.5÷1.71÷1.71=20で、日本では普通体重ですが、アメリカでは低栄養領域になってしまいます。
認知症の予防でエビデンスが充実しているものとして「運動」「食事」「社会活動」が挙げられています。
65歳以上の人は週に150分以上の中強度の有酸素運動か、週に75分以上の強度の高い運動をしましょう。
バランスよく、いろいろなものを食べるようにしましょう。DHC(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)が多い魚は良いとされていますが、WHOの「認知症予防ガイドライン」は(サプリメントを含め)特定の栄養成分の効果には否定的だそうです。
免疫機能低下防止
残念ながら、免疫機能は40代後半くらいから急激に老化が始まります。
40~50代の現役世代であれば、糖分、カロリー、脂肪の取り過ぎ、アルコールの飲み過ぎ、働き過ぎなど、過食と過度のストレスを避けることが大切。その上で、適度な運動(ウォーキング、ヨガ、ストレッチなどの有酸素運動)と規則正しい生活をすることがお薦め。ただし、過度の運動は逆に免疫機能の低下を招く恐れがあるから要注意。精神的なストレスも免疫機能を低下さます。
規則正しい生活を送ることが大切。有効なワクチン接種で獲得免疫と自然免疫を鍛えましょう。
老化細胞除去
細胞の老化が進んで、もはや細胞分裂をすることができない状態になっているにもかかわらず、肝臓や内臓脂肪といった臓器の中にとどまって悪さをしているのが老化細胞です。
細胞の老化は体を守るという安全装置という側面も持つようですが、それが蓄積されると、炎症のもとになる生理活性物質などが分泌されるSASPという現象が起こり、過度なSASPは、がんをはじめとする加齢性疾病の引きがねとなるようです。老化細胞の除去で若返る可能性もあるそうです。
過度なSASPを抑えるためには、まず高脂肪食や過食による肥満を防ぎ、腸内細菌を整えることが大事です。老化細胞を除去する食品は、ポリフェノールの一種である、フィセチン、ピペロングミン、クルクミンなどがあります。フィセチンは、イチゴやリンゴ、柿、マンゴーなどに多く含まれ、クルクミンはウコンやカレーのスパイス・ターメリックに含まれるそうです。
過度の飲酒は避け、禁煙など体に優しい生活を心がけ、適度な運動をしましょう。
ただし、運動のやりすぎや、おすすめ食品の食べ過ぎは害になるので要注意です。
思い立ったが吉日、今日から運動を始めましょう
座りっぱなしは、死につながるリスクだそうです。仕事が忙しい人は、まず、休日に座っている時間を減らしましょう。休日に何もせずテレビやスマホを見るだけといった状態を続け、間食ばかりしていると危険ですよ。
あなたが高齢者であれば、できるだけ歩きましょう。1日8000歩くらいを目標にすれば、十分な成果が得られるそうです。
まだまだ元気な方は、ある程度の負荷をかけて有酸素運動をしましょう。いわゆるHIIT(ヒート:高強度インターバルトレーニング)のような、心拍数を大きく上げて短時間で終わらす運動の効果は効果が大きいようです。HIITは「20秒運動して10秒休む」を1セットとして8セットを繰り返すというパターンが一般的です。この本では、体脂肪の燃焼効果が高いHIIT4というトレーニング方法が紹介されていますので、興味のある方はご一読ください。
ハードな運動はちょっと・・・という人は、速足と普通歩行を3分ずつ繰り返すインターバル速足がお薦めです。「3分の速足+3分の通常歩行」を1日5セット、週4日以上は続けましょう。有酸素運動は認知症を防ぐ効果もあるそうですよ。
空気と環境
肌老化を進め、見た目年齢の老け方が早いという点で、タバコとひどい大気汚染の影響はほぼ確実と言っていいそうです。直ちにタバコを止め、居住空間の空気環境を点検してみましょう。
抗酸化物質の多い食品(ビタミンCやビタミンE)は大気汚染の害を抑えてくれるそうです。また、青魚に多く含まれるDHC(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)などのオメガ3脂肪酸には、大気汚染から脳を守ってくれる作用があるようです。
環境省や自治体のホームページで大気汚染像法をチェックし、PM2.5濃度がリスク領域にあるときや、黄砂の飛散が多いときはなるべく外出を控え、出かけなければならないときはマスクをしましょう。
PM2.5の濃度が高いときは窓を閉めるべきですが、そうでない場合は2時間に1回は部屋の換気をしましょう。床の掃除で床からの対流汚染空気を減らし、活性炭やセラミックで化学物質を吸い取る吸着型の空気清浄機も有効です。備長炭を6畳の部屋だと4~5本置くのも良いとのことです。
以上、ちょっと長くなりましたがお許しください。
最後に、最先端の研究によると、遺伝子を編集し、臓器を入れ替え、安全性と生命倫理の問題が解決すれば、125歳まで生きることは可能だそうです。サイボーグのようになってまで長生きしたいとは思いませんが、いつまでも元気で走り続けるために、この本に書かれていることを出来るところから実践したいと思います。